「痛い事」よりも「動く事」の方が大切
これは「痛くても動かすことが大切」というお話ではありません。
「痛みがある」「痛みが残っている」といった部分に意識を向けるのではなく、「身体がしっかり動けているか」に意識を向けて欲しいという事です。
この意識の違いで身体との向き合い方が全く違ったものになります。
結論から言いますと「関節が正しく動けば痛みは自然と消えていく」のが人間の身体の仕組みなのです。「関節が正常に動かないから、痛みが起こる」のですから。
意識を向けるべき点が少しずれてしまっている為に、慢性痛に悩む方が後を絶たないのです。
「痛い」と「動かない」の関係について
痛みを抱えている方の殆どは「痛くて身体が動かせない」という認識でいます。「動かしたいんだけど、痛くてダメなのよ」と。
惜しい、実に惜しい
言葉遊びみたいになるのですが、痛みに関する認識をほんの少しだけ改めてください。
- 【×】痛いから動かせない
- 【○】動かないのを無理に動かそうとするから痛くなる
患者様あるあるの「痛いから動かせない」の場合は前提が「動くけど痛みに邪魔されている」というものです。だから頑張って動かします。
特に多いのが「動かさないと固まるよ」と言われて、無理して動かした結果「余計に悪化する」というケースです。
これは正に認識違いが原因です。
動かさないと固まる訳ではなくて、その関節は既に固まっています。脳が動かしたらマズイと判断をして、筋肉を通して関節を固定しているのです。
その固定を無視して動かそうとした時に「痛み」が起こります。つまり痛みとは関節のブレーキポイントなのです。
「それ以上動かすと壊れるよ」という。
動かさないと固まるのはこういう事
「動かさないとドンドン関節が固まる」というのは、関節が固まるというより「廃用性萎縮」が起こるという事です。
使わない関節では筋肉のリストラが起こり、関節を動かす力がドンドン弱くなります。「固まる」というより「弱る」のです。動かす力が無くなる事を「固まる」と誤認してしまうのです。
このプロセスを理解しておかないと回復させるつもりが自分で自分を壊すという最悪の結果をもたらします。そしてそれは結構日常的に起こっています。
変形症による固定もある
勿論、関節の石灰化・骨化による運動制限も出てきますが、それは筋肉ではなく物理的な変形であり「変形性関節症」です。つまりは別問題です。
そもそも骨棘などの骨化が起こるのは関節に不自然な負担を掛け続けた結果、身体が新たな環境に対応しようとする変化ですので、それこそ「痛みをこらえて無理に動かした」事で起こりやすくなります。
大切なのは「何故、関節が固まったか」です
関節を固めているのはズバリ「脳」です。そして、脳からの指示を受けた実行部隊の筋肉です。これを強行突破するのはまず無理だと思ってください。
- ならば、何が必要なのか
- ならば、何をすれば良いのか?
- 何故、関節がロックされているのか
これを理解して対応する必要があります。これが唯一の突破口だと考えてください。大切な事はとにかく「原因」を絞り込む事です。
原因1:身体の連動が壊れている
本質的な原因はこれです。当院でいう「キネティックチェーン」の崩壊です。
- 首・肩・腰・膝の痛み
- 野球肘、テニス肘等の痛み
- 首・肩・腰・膝の重たい・だるい違和感
「ここが痛い」という自覚症状の関節は「負担を一身に背負った関節」です。
本来なら10㎏の負担を4つの関節で2.5㎏ずつ負担をしていたものが、1つの関節で8㎏近くを負担させられている状態です。これは関節には非常に厳しい環境となります。
頑張り屋さんの身体は何とかしようと頑張りますが、肝心の私達が身体を思いやらない為に悲鳴をあげてしまいます。
- 痛いなぁ、おかしいなぁ
- 身体が固まるなぁ
- 身体が何だか窮屈になってきたなぁ
この様な違和感を感じた時点で「今の生活、状態はマズイ」と判断をできる様になれば十分な患者力が育ったといえるでしょう。これは正に「身体からのメッセージ」です。
まさに「身体と会話ができている」という事です。
アスリートには特につらい
アスリートが苦しむ「野球肘、テニス肘、ゴルフ肘」等の肘関係から肩関係の故障はこの「キネティック・チェーンの連動」が壊れて起こります。
ですが、本人はそれどころではありません。死活問題です。多くのアスリートは関節が危険を感じて固定されているにも関わらず「力任せ」で誤魔化す為に筋肉だけでなく腱まで痛める可能性が高くなります。これはもう選手生命を削る行為です。
ここで大切なのは患部への対処よりも運動に連なるキネティックチェーンの回復です。でないと永遠に故障ループにはまります。
原因2:姿勢の歪みが定着している
これは「原因1」を作り出す原因です。ただ、「姿勢が先か、筋肉の連動が先か」はわかりません。鶏が先か、卵が先かの話になります。
ですので、共存関係だと考えた方が良いでしょう。痛みや痺れが出ている患者様は例外なく姿勢は歪んでいます。それは筋肉の連動が崩れ、左右の筋肉のバランスも崩れた結果、筋肉によって制御されていた姿勢が崩れるからです
「姿勢が歪んでいる=筋肉のバランスが崩れている」という認識で良いと思います。
原因3:特定の関節に負担が押し付けられる
関節がロックされる原因は大なり小なりの負担の差はあれど、本質的には「ぎっくり腰」と同じです。
- 瞬間的に過剰な負担が関節にかかった
- 継続的な負担が関節の負担限界を超えた
「一発で限界突破をする」タイプか「ジワリジワリと蓄積した負担が累積で限界突破した」タイプのいずれかで関節はロックされます。
どちらにしても「このままだと関節が壊れる」と脳が判断をしたからです。
関節がロックする事によって動きはかなり制限されます。周辺の筋肉・関節が代わりに頑張ろうとします(代償作用)が、所詮は「その場凌ぎ」に過ぎません。結果、関節のロックは広がるばかりです。
これが「どんどん肩が上がらなくなる」に多い多重ロックです。「自分で何とかしよう」と頑張る男性に特に多いですね。
関節ロックの解決策
関節が固まる主な理由を3つ紹介しました。ではこれらの関節のロックを防ぐ・解除するにはどうすることが必要なのか。
ここでは主に3つの解決策を紹介します。これは3つのどれかをすれば解決するのではなく、段階的に取り組んでいく事が大切です。
- 関節が固まる、因果関係を理解する事
- キネティックチェーンの回復を促す事
- 日常的に本来の関節運動を習慣づける事
1.ロックの因果関係を理解する事
まず第一に必要なことは「関節が固まる仕組み」を理解することです。これを理解しておかないと「痛くても動かさないと駄目」という方向に意識が向いてしまい、無理にリハビリを進めた結果、症状が悪化するというパターンになりやすいです。
- 何故、関節が固まるのか?
- 今、関節とその周辺には何が起こっているのか?
- 元に戻すにはどうするべきなのか?
これをしっかり理解して、正しい選択を取れる様にしましょう。健康に関する問題は「情報武装」はとても大切です。
2.キネティックチェーンの回復
次に大切なのは「壊れた筋肉の連動性を取り戻す」という事です。いわゆるキネティックチェーンの回復促進となります。
特定の関節に負担が集中している状態を元に戻さない限り、どの様な働きかけをしたところで問題は解決しません。まずは「身体の運動性(全体性)」を取り戻す事が大切です。
どうしても「痛い部分」に目が向きがちですが、その痛みがどうして起こったのかという「発生プロセス」を理解しておけば「痛くない部分」へのアプローチが意味ある事だと理解することができるはずです。
3.本来の関節運動を習慣づける
最後に大切になるのは「日常的に本来の関節運動を習慣化する」という事です。
関節が固まっていく要因には大きく二つあります。
- 関節をしっかり使っていない
- 使用範囲が狭く、使用頻度は高い
逆を言えば、この二つをしっかり克服すれば関節が固まる事によって「痛み」「痺れ」が起こる危険性を最小限に抑える事ができます。
要因1.関節をしっかり使っていない
現代人はとにかく「運動不足」と「限定的な運動」のセットが生活に根付いています。
私達の関節にはそれぞれ「可動範囲」が設定されていますが、その5割も使っていたら良い方です。それくらい日常生活で「からだを使っていない」という状況にあります。
人間の身体は「使わなければ衰える」という仕組みがあり、それを廃用性萎縮と呼びます。入院中によく起こる現象なのですが、日常生活でも軽度の廃用性萎縮が起こっていると考えてください。
本来10の範囲で動くべき関節が、生活の中で5の範囲でしか使われていません。そうなると本当に5しか動かない関節になります。実際には「5」の範囲しか動けなくなった関節を「10」のイメージで使っているのが今の私達なのです。これは関節には過剰な負担をもたらします。
ですので、しっかりと関節本来の可動範囲で関節を使ってあげましょう。人間の関節は本来の動きをすることによって「最も効率的な動き」を実現します。
要因2:使用範囲が狭く、使用頻度は高い
現代社会の関節の使い方はとても偏っています。
- 使用する関節は限定的
- 関節の使用範囲は限定的
- 関節の使用頻度は高頻度
つまり、少しの関節を少しの範囲で沢山使うという状況にあります。これは「動くことが仕事」である関節にとって苦痛です。疲労が蓄積する一方で回復に勤める事ができません。
だから、関節が固定され筋肉の連動も失われるのです。
ですので、しっかり全身の関節を満遍なく使っていきましょう。そうすることで身体は複数の関節で負担を分散し、疲労の蓄積を最小限に抑えます。それは「キネティックチェーン」が正常に機能した姿です。
身体が動くなら問題ない
患者様は「痛い」「痺れる」という自覚症状を感じて来院をされます。その時には意識のフォーカスは「痛み」「痺れ」にあてられています。
これは患者あるあるです。
この場合、患者様は「如何に痛みや痺れがマシになるか」という点に焦点を置きますので、「それがニーズだ」とばかりに「痛みや痺れ」の部分だけに施術を絞る院が増えていきます。
本当に大切なのは「からだが正常に動くかどうか」です。結果的に痛みが残ったとしても正常に身体が動けば問題はありません。
- 筋ポンプが痛み物質を洗い流します
- 筋ポンプが栄養を全身に届けてくれます
- 身体は自分で元に戻れます
自然治癒力を戻す、ホメオスタシス(生命の恒常性)を戻すとは「からだを正常な状態に戻す」事であり、痛みを無くすことではないのです。
痛みは後で結果的に変化していくものに過ぎないのです。